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前橋地方裁判所 昭和62年(わ)375号 判決 1987年11月24日

本籍

群馬県利根郡白沢村大字尾合三九六番地

住居

同村大字上古語父二四七番地 宮田純一方

会社役員

宮田敏夫

大正一二年八月一一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官半田秀夫出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金四五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、群馬県利根郡白沢村大字上古語父二四七番地及び同村大字上古語父一九一番地において、こんにゃく粉の製造・販売等を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、収入の一部を除外したり、仮名預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五七年分の実際所得金額は四二五九万五九九九円であったにもかかわらず(別紙1修正損益計算書参照)、昭和五八年三月一日、同県沼田市十王堂一九一〇番地二沼田税務署において、同税務署長に対し、昭和五七年分の総所得金額が四四八万七一三四円で、これに対する所得金額が五〇万四二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一九四二万二三〇〇円と右申告税額との差額一八九一万八一〇〇円(別紙2税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五八年分の実際総所得金額は一億九〇二四万八九〇六円あったにもかかわらず(別紙3修正損益計算書参照)、昭和五九年三月一日、前記沼田税務署において、同税務署長に対し、昭和五八年分の総所得金額が一四一六万五二七九円で、これに対する所得税額が三八三万八一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億二五九四万六三〇〇円と右申告税額との差額一億二二一〇万八二〇〇円(別紙4税額計算書参照)を免れ、

第三  昭和五九年分の実際所得金額は五四八七万二八五七円あったにもかかわらず(別紙5修正損益計算書参照)、昭和六〇年二月二六日、前記沼田税務署において、同税務所長に対し、みなし法人課税方式を選択して、昭和五九年分のみなし法人所得金額がマイナス六一五万四七三六円で、同年分の総所得金額が八八七万八〇六八円で、これに対する所得金額が六万五六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二六五三万一四〇〇円と右申告税額との差額二六四六万五八〇〇円(別紙6税額計算書参照)免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官及び大蔵事務官(三四通)に対する各供述調書

一  春日勇吉の検察官に対する供述調書謄本

一  沼田税務署長作成の昭和六一年二月二八日付証明書

一  大蔵事務官作成の売上金額調査書、期首棚卸高調査書、仕入金額調査書、租税公課調査書、旅費・交通費調査書、荷造運賃調査書、水道・光熱費調査書、通信費調査書、広告・宣伝費調査書、接待・交際費調査書、損害保険料調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、福利厚生費調査書、給料・賃金調査書、利子・割引料調査書、地代・家賃調査書、支払手数料調査書、車両関係費調査書、諸会費調査諸、賃借料調査諸、燃料費調査諸、包装費調査書、外注費調査書、減価償却資産の残高および減価償却費調査書、雑費調査書、専従者給与調査書、事業専従者控除調査書、事業主報酬調査書、農業所得調査書、みなし法人所得調査書、不動産所得調査書、利子所得調査書、配当所得調査書、給与調査書、譲渡所得調査書、雑所得調査書及び山林所得調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書二通

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書及び脱税額計算書(いずれも昭和五七年度分)

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書及び脱税額計算書(いずれも昭和五八年度分)

判示第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書及び脱税額計算書(いずれも昭和五九年度分)

(法令の適用)

一  判示各所為 いずれも所得税法二三八条

一  刑種の選択 いずれも懲役刑と罰金刑を併科

一  併合加重 懲役刑につき刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)

罰金刑につき同法四五条前段、四八条二項

一  労役場留置 罰金刑につき同法一八条

(量刑の事情)

本件は、こんにゃく粉の製造・販売を営む被告人が、こんにゃく相場の変動が著しいことから、相場変動による不慮の損失に備えるために資産を蓄積するべく、所得税を過小に申告して、所得税の支払を免れようと計画し、判示のとおりの脱税行為に及んだという事案である。国民には納税の義務があることは憲法三〇条が規定するところであり、殊に、所得税は、国家の各種施策の財源としての租税収入の根幹をなすものであり、脱税行為が社会に及ぼす害悪の重大さ、深刻さは多言を要しないところであって、この種事犯の悪質さは明白であり、特に被告人のような事業所得者による所得税の脱税に対しては従来から社会的にも強い非難がなされていることも量刑に際しては軽視できないところである。ところで、弁護人は、本件犯行の動機は、前述したようなものであり、遊興費の獲得目的のような場合と対比すると、それなりに酌むべき事由がある旨強調するが、所詮はは正規に支払うべき所得税を免れて自己の資産の蓄積を図ったというに過ぎず、犯行の動機としては酌むべき事由は乏しいというほかはない。また、本件犯行の態様、結果が悪質であること、収入を除外し、仮名預金を設定したり、債券を購入したうえ、自己の本件犯行が発覚しないように、これらの預金証書等を巧妙に隠匿したりしていることや、ほ脱税額の総計が一億六七四九万二一〇〇円という極めて高額なものであり、ほ脱税額の割合が、昭和五七年分が九七・四〇パーセント、昭和五八年分が九六・九五パーセント、昭和五九年分が九九・七五パーセントというように、極めて高率に達していること、相当期間にわたって反復継続していた形跡もあり、かなりの計画性、大胆さも認められることなどからも窺うことができる。そして、昭和五七年度分及び昭和五八年度分については、税務署の調査を受けた後、昭和五九年九月二七日修正申告をした際にも、実収入の一部のみの修正申告にとどめているだけではなく、判示第三の昭和六〇年二月二六日における昭和五九年度分についての申告の際には、平然と虚偽の申告を重ねたものであって、その悪質さは著しいものがある。また、被告人は、本件犯行発覚防止を図って、種々の証拠隠滅工作を行ってもいることも軽視できないし、相当以前の前科とはいえ、昭和四二年四月二八日公職選挙法違反により懲役四月・四年間執行猶予にも処せられているのであって、遵法精神が希薄とも思われることも、被告人に対する量計に際しては十分に考慮すべき事項であるといわざるを得ない。そして、以上のような事情を総合すると、被告人の刑事責任は相当に重いというほかはない。

したがって、被告人が既に修正申告をして全額の納税を完了していること、反省の態度が顕著であること、これまでの杜撰な経理事務を改善していること、事業経営の一線を退き、息子に経営を任せていること、これまでに種々の社会的な貢献をしていること、本件犯行発覚後は、当然のこととはいえ厳しい社会的非難を受け、心労の余り健康状態もすぐれないこと、その他被告人に有利な諸般の事情を勘案してみても、この種事犯の一般予防の見地からしても、本件は懲役刑の執行を猶予すべき案件であることはいいがたく、この際被告人に対しては懲役刑についても実刑をもって臨むべきであると思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 大渕敏和)

別紙1

修正損益計算書

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

<省略>

別紙2

<省略>

別紙3

修正損益計算書

自 昭和58年1月1日

至 昭和58年12月31日

<省略>

別紙4

<省略>

別紙5

修正損益計算書

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

<省略>

別紙6

<省略>

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